COLUMN
2024.10.22
vol.571「復活した“写研”の思い出」
森山 良二(デザイン部)
現在、日本でデザイン、特にグラフィック関連の仕事をする際には、多くの場面で「モリサワ」のフォントを使うことが一般的です。これは、初期からデジタルフォントを提供・販売してきた歴史的な背景があり、その結果、業界のスタンダードとして定着したからです。
しかし、私が学生時代、そして仕事を始めた頃のパソコン普及前夜には、「写研」という会社の書体が主流でした。
当時は「写植」(写真植字の略)と呼ばれる手法が用いられており、写真の原理で印画紙に文字を焼き付けるという技術でした。デザインの現場では、写植専門の業者に文字の種類やサイズを指定した原稿を渡し、機械で打ち込んでもらうという流れが一般的でした。
実は、この写植技術は「モリサワ」と「写研」の創業者によって共同開発されたもので、その後、両者が別々に大阪と東京で会社を立ち上げました。関東では写研が最大手として君臨し、学校でも写研の書体見本帳が教材として使われていました。(関西圏ではモリサワもそれなりに使われていたようです。)しかし、時代が進む中で、写研の書体はデジタル化の波に乗り遅れてしまいました。
そんな写研の書体が、ついにモリサワから新しいフォントとしてリリースされました。特にベーシックな明朝体などを見ると、私は写植時代にタイムスリップしたかのような懐かしさを感じます。それと同時に、時代を超えても美しいと感じる普遍的なデザインだと思います。
若い世代がこれらのフォントをどのように受け取るかも興味深いところです。アナログレコードが再び注目を浴び「復活」と言われるように、写研フォントのアナログ的な美しさも再評価される可能性があるのではないでしょうか。むしろ懐古趣味ではなく、無数に存在するデジタルフォントのひとつとしてなんなく使いこなしてしまうことでしょう。