COLUMN
2024.10.01
vol.568「インクルーシブデザイン」
伊藤 貴生(CS課企画)
近年、インクルーシブデザイン(inclusive design) という考え方が注目を集めています。
インクルーシブデザインとは、障がい者や高齢者、外国人など、従来の製品やサービスでは満たされない多様なニーズを持つ人々を考慮し、製品やサービスのデザインを行う手法です。
これまでの新商品開発では、平均的なユーザーをターゲットとすることが主流でした。これは、より多くの人々に受け入れられることで、ヒット商品が生まれると考えられていたからです。しかし、経済が成熟した社会では、平均的なユーザーの声だけを聞いて商品を差別化するのは難しくなっています。
そこで、障がい者や高齢者、外国人といった「極端代表=リードユーザー」の視点を取り入れることが重要になります。彼らの悩みや不便さをデザインプロセスの初期段階で調査し、その過程で潜在的なニーズを掘り起こすことで、先入観を打破した商品開発が可能になります。
例えば、テレビの字幕機能は聴覚障がい者向けに開発されたものですが、現在では病院の待合室など多くの場面で役立っています。私自身も、大河ドラマを観る際に歴史上の人物名などを理解するために、日本語字幕を利用しています。こうした副次的な効果は、インクルーシブデザインの力を象徴しています。
また、アスクルの「かどまる」は、ティッシュボックスの角を丸くすることで乳幼児の怪我を防ぐ目的で開発されましたが、全世代から支持を集め、ヒット商品となりました。このように、特定のニーズに応えるデザインが、より広い層に受け入れられる例は少なくありません。
インクルーシブデザインは、多様な人々の視点を取り入れることで、新しい価値を生み出す力があります。
これからは、多様性を意識したデザインが、より広い層に愛され、成功する製品やサービスを生む鍵になるでしょう。